ICT支援授業への(よくある)批判(2)

昨日のエントリの続き。

日本産経新聞(2012/1/1)の同じページにこんな記述があります(○付き数字は筆者の挿入)。

『①IT化そのものへの抵抗感も壁になる。文科省がIT化推進のため設けた有識者懇談会では「情報化だけを先鋭的に進めることなく、手で書くなどの身体活動を組み合わせるべきだ」との意見が出た。②同省は「紙の教科書やノートはなくさない」と説明するが、子供の頃から情報機器に囲まれる生活が続くことを危惧する声は根強い。』

①で言うところの「抵抗感」。主語が教員なのか、子どもたちなのか、家庭なのか、一般人なのか分かりません。この文を受けて有識者懇談会なるものが登場しますが、この意見はしごくまっとうです。パソコンやソフト(アプリ)だけで授業は完結しませんし、手を実際に動かして文字や図形を描く、色を塗る、紙を切り抜く、糊で貼り付ける、といった操作はとても大切です。まさか、タブレットパソコンが入ることでこういったことが教室から無くなってしまうと、本気で心配している人がいるってことでしょうか。
この辺の感覚は、導入が進む現場の先生は肌で感じています。数時限も授業を行えば大勢の教員が「板書をいかに残すか」をかなり意識し始めます。
私の観察では概ね以下のような「デジタル」と「アナログ」の棲み分けになります。
・電子黒板(プロジェクター)=動 説明のための写真、動画、ソフトなどをテンポラリに投影
・黒板(板書)=静 授業の流れを残す、子どもがノートに筆写する
この2つを並べて提示し、2面で授業が進んでいきます。手書きのノートを残すために、わざわざ「ワークシート」を事前準備し配布している教員もいます。

報道の問題に戻ります。
有識者懇談会の意見を有難がって引き写すだけでなく、教育の視点を持ち合わせた記者が現場取材をきちんと行うことで、いたずらに不安を煽るだけの報道ではなく「ここまでできている。じゃあ、その先は?」という提言に繋がると思うんです。
そして現場取材ができていれば②のように「子供の頃から情報機器に囲まれる生活が続くことを危惧する声は根強い。」 とミスリードすることもなくなります。
どうも現場を見ずに、頭の中で「子どもが四六時中パソコンを使って勉強をする」という 図式を勝手に作り上げ、それに対する批判をするというような不毛感漂う記事はもう勘弁して欲しいですね。これはたまたま取り上げた産経だけの問題ではありません。

子どもの健康への懸念を表明する記事がこの後に続きます。確かに「ディスプレーを長時間見ることで視力が低下」することはあるでしょう。が、児童が一日どれくらいの時間ディスプレーを見ているのか、根拠(データ)が示されていません。一日平均30分以下というクラスもあれば2時間に及ぶクラスもあるかもしれません。
また眺めるディスプレーが手元のパソコンなのか、電子黒板のプラズマディスプレーなのか、機器による特性にも留意する必要があると思いますが、このあたり「ディスプレー」としか書かれていないのは大雑把です。
議論の土台とするなら、最近の子どもの多くが持っているゲーム機や携帯電話の利用時間、家でのテレビの視聴時間をトータルで考えないといけません。学校での電子機器使用にだけ批判の矢が向くのはおかしなことです。そして電子黒板やタブレットパソコンの使用時間の目安について現場(教員)任せではなく、具体的な指針をつくる段階に来ていると思います。

学校現場に入り始めたICT同様、ICT教育を取り巻く報道や人々の意識もよちよち歩きを始めたばかり。でも、マスコミはきちんとした議論の土台として「現場の正確な姿」を伝える努力をもっとしてもよいように思いますが、いかがでしょうか。

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