ICT機器について(2)―デジタル教科書

前回の電子黒板に続いてデジタル教科書を。

昨年2011年は新学習指導要領に対応した教科書の導入に伴い、先生用のデジタル教科書が多数販売された「デジタル教科書元年」とも言える年でした。
その使い勝手はどうなのでしょう?

デジタル教科書に期待される役割は、紙の教科書では実現できないインタラクティブ性、動画やシミュレーションといったコンテンツでしょう。また展示会などでは機能の多さが目を引くことは間違いありません。
その機能ですが、絶対はずすことができないものがひとつあると考えています。それは「拡大」機能。

前エントリ「電子黒板(IWB)」で「電子黒板は大きいけど小さい」という表現を紹介しました。前方席の児童にとってはよく見えても、後方席の児童からは小さくて見づらい。これが現在多く設置されている50インチ程度の電子黒板のサイズです。
ですからページの拡大機能は、現在のデジタル教科書にとって必須の機能なのです。この機能は私の知る限りすべてのデジタル教科書が備えています。

拡大機能の使い勝手の良さが、教室でのデジタル教科書の使い勝手の良さを決定づけているといっても過言ではありません。以下、私の体験したデジタル教科書についてインプレッションを述べます。なお、あくまで私の個人的な見解であることをお断りしておきます。

まず、教員のICTスキルにばらつきがある現状では多機能すぎるデジタル教科書はそのポテンシャルを発揮できません。のみならず、メニューの多さ・煩雑さがスムーズな授業中の操作の妨げになっている感さえあります。この例として東京書籍(東書)版のデジタル教科書を挙げることができます。
東書版はデジタル教科書の項目がオブジェクト(部品)になっており、教員が自由にオブジェクトを選択・配置することでオリジナル教科書を作成することができるという野心的なもの。作成した教科書のページは印刷してプリントを作ることもできます。また、社会科の教科書等に含まれるビデオはハイビジョンクォリティのものも多く、同社の意気込みが伝わってきます。
残念なのはきちんとマーケティングされていないこと。
機能の多さは随一ですが多機能なあまりメニュー項目が多く、授業中の操作に先生が戸惑うシーンも見られ、使う側にそれなりのリテラシーを要求するものとなっていて、使いこなせているのはごく一部の先生といった印象です。

この対極にあるのが教育出版。
画面の拡大、書き込みのできるペンなど必要最低限の機能しか持ち合わせていませんが、現場の先生からは「これで充分」との声が数多く寄せられました。 確かに教科書を電子黒板に拡大して投影し、児童に見せて講義を進めるという現行の使い方ではこれで間に合っています。また教えることに集中している先生にとって操作で迷うことが少ないというのも利点となっています。ただし、その操作性が洗練されているとはまだ言えません。

現時点で私がもっとも評価しているのは啓林館と光村図書です。
啓林館は機能と操作性のバランスがいい。例えば拡大機能にしても ドラッグで拡大範囲を選択する教科書が多いのに対し、表示できる最大サイズに自動的に拡大し、簡単な操作で表示範囲を移動できる操作性のよさが光ります。
またシンプルでありながら、静止画、動画、アニメーションといったコンテンツも豊富に取りそろえ、迷うことなくアクセスし表示することができます。繰り返しになりますがこの「迷うことなく」というのは重要なポイント。先生が授業中に操作を意識するようではダメなんです。
光村図書は国語の老舗だけあってツボを抑えた作りになっており、特にダメ出しするポイントが見つかりません。

デジタル教科書の今後の課題は操作性、インタフェースデザインでしょう。
現在出ているものは教科書会社、つまりコンテンツホルダーが制作しています。となると「いかに多くのコンテンツを載せるか」「多機能にするか」という観点が優先してしまう恐れがあります。導入以前の検討段階で見栄えがしますしね。
パソコンのソフトウェアでいうとオフィススイートを考えてみて下さい。現在の肥大化した多機能オフィス(Word や Excelなど)で、使いたい機能を探すことはありませんか?  すべての機能のうち何%を使っていますか? 同様の視点がデジタル教科書にも求められています。
大切なのは教室での操作性。 今後のデジタル教科書の進化に期待します。

ICT機器について(1)―電子黒板(IWB)

 

学校で使用されるICT機器について。

まず教室で目を引くのが電子黒板(IWB、インタラクティブホワイトボード)。
厳密には電子黒板とIWBは異なるものですが、IWBという用語に拒否反応を示す教員もおり、私は現場では電子黒板という用語を用いるか、「IWB、これは電子黒板のことですが」と言っています。
※参考「ウィキペディア 電子黒板

余談になりますが、学校現場に限らずカタカナ語や横文字に対する嫌悪、もっというと反感というものがどこの世界にもあり、細かいことですが新しいものを導入する場合、このあたりにも留意する必要があります。すなわち、言い換えが効かないテクニカルタームであれば十分に説明した上で使用する。似た用語が日本語にあれば併用し、徐々に慣れてもらいます。

インタラクティブ=双方向という言葉は、IWBに「書いたものをパソコンに入力/パソコンで再生できるものを出力」できるところから来ています。
形態としては大きくディスプレイ型/プロジェクタ型の2種類あり、それぞれ長短があります。
私がよく触れる機種は日立ソリューションズのStarBoard、エプソンのオフィリオです。
ディスプレイ型は表示が明るく、明るい教室でも見やすい半面、ペンや指での操作にやや難があります。また、プロジェクタ型はペンの応答はよいのですが、明るい教室では映像が鮮明に見えません。
それぞれの特徴を簡単に整理します。

ディスプレイ型(StarBoard) プロジェクタ型(オフィリオ)
設置場所 教室の床に設置、比較的場所を取る 天井に設置(単焦点型)邪魔にならない
画面の大きさ 50インチが中心
やや小さい
70インチ~
充分な大きさ
画面の明るさ 明るい
→日中でもよく見える
やや暗い
→カーテンを引く必要がある
ペンの反応 やや癖があり、書きにくい ほぼ意図したとおりに書ける

はじめてIWBを目にした方はその大きさに驚かれますが、先生方の反応はちょっと違っていて「小さいね、教室の後の子は見えるかな?」とすぐ口にされます。さすがプロ!
という訳で「IWBは大きいけど小さい」とよく言われていますよ。

このIWBとデジタル教材を併用することで、教え方に幅が出てきます。が、一足飛びにあれもこれもと欲張らず、双方向ではなく一方向「プロジェクタ的」に活用するところから始めても十分な気はします。

その際のポイントは「拡大してクラスで映像を共有する」

いくつか挙げてみると、

  • 習字の時間に先生の手元を拡大して見せる
  • 裁縫の針の使い方や包丁の使い方を実演して見せる
  •  黒板用ではなく児童が使用しているものと同じコンパス、三角定規を使って見せる
  • 教科書を投影し、児童の目線を上げられる
  • 教科書に付箋を貼ってポイントを隠すことで習得・思考、はがして確認できる
  • 児童生徒がその場でまとめたノートを投影してクラスで共有
  • ・・・

いかがです? 工夫次第でまだまだ使い方は広がりそうですね。

ICT活用授業は1教室に1台のIWB(プロジェクタ)から始まる。それくらいの可能性を秘めています。

※「1教室に1台」というのがポイント。使いたい時に使える環境(特別教室に移動しない/機器を教室に運ばない・セットアップしない、他のクラスと使用時間がかぶらない)にあるということが、とても大切です。

職業としてのICT支援員

昨日のエントリの続き。

「ICT支援員は職業としては難しい面がある」と述べて終わりましたがどういうことか?

現在、ICT支援員は自治体や教育ベンダー、派遣会社などの企業が雇い入れ、学校現場に派遣するという形態が主流です。そして彼らの雇用形態は「有期雇用」。契約はよくて年度更新、中には学期ごとの更新もあると聞きます。さらに「フューチャースクール」や「絆プロジェクト」など、国の予算が使われるプロジェクトの場合、プロジェクトの期間(3年)後の仕事については白紙です。
まだ新しい職種として安定化していないのは仕方ないとは言え、3年後に仕事がなくなるかもしれない状況では積極的に就業しづらいのは事実です。

また、教員と違い「ICT支援員」という認定制度がないのも事実で、一口に支援員といっても支援員間のスキルに差があるようです。そうですよね、現状では採用されればICT支援員となりますから。
なお、「情報ネットワーク教育活用研究協議会」が教育情報化コーディネータ検定という資格の認定を行っています。なかなかの難関のようですが、興味・関心のある方は内容を調べてみてはいかがでしょう。参考になる部分が多々あるかと思います。もちろん、受検するのもありですね(笑)。

多くの教員がICT支援員の必要性を感じていますが、自治体も予算的に厳しいところが多く、ICT環境導入時はともかく、継続してICT支援員の雇用を続けるのは難しいようです。

このあたりは国がICT支援員の資格認定と合せて、持続する雇用の仕組みのために制度を整備する時期に来ているのではないかと思います。

ICT支援員の資質

ICT支援員に求められる能力とは何でしょう?

ちなみにフューチャースクールなど新しいタイプのICT利活用授業では、
・電子黒板(IWB、インタラクティブホワイトボード)
・IWB用パソコン(+教員パソコン)
・実物投影機
・児童用パソコン(タブレット)
といった電子機器について教員をサポートします。さらに、電子黒板、教員用パソコン、児童用パソコン (タブレット)は無線LANで相互接続され、児童が手元で操作しているパソコン(タブレット)の画面を瞬時に電子黒板で共有できます。

これだけの機器、さらにソフトウェア(アプリ)を使いますから、授業中にトラブルが発生することは避けられません(その多くは無線LANに起因するものです)。
先生の操作を支援し、トラブル対処もする。
ですからICT支援員に必要なスキルを問われると「ITスキル」を真っ先に上げる人がほとんどです。

しかし、現場の様子を見ていると意外とITスキル命!ではない。実はITスキル以上に重視されているのが「ヒューマンスキル」、つまり先生方、子どもたちと円滑にコミュニケーションを取る能力だったりします。「そんなの当たり前」というツッコミもあるでしょうが、これホントの話。

もちろん、ある程度のITスキルがあっての話ですが、某コンテンツプロバイダの重役など「ICT支援員にITスキルはいらん!」とまで言い切っています。まあ、これはコミュニケーション力が重要だということの、ひねった表現なんでしょうけど(笑)。

さらに私は上記に加え、フットワークの軽さ、明るさを挙げたいですね。自ら「お手伝いしましょうか?」と声が出る、先生方が頼みごとをしやすい、といった点も大切だと思います。

ITスキルは比較的身に付けやすいものです。それ以前の「人間」の部分が大切なのはこの仕事に限りません。結局、子どもが好きで「子どもたちの喜ぶ顔が見たい」という人ほど学校現場で輝いているようです。

ただ、ICT支援員は職業としては難しい面があります。これついてはまた明日触れます。

ICT支援授業への(よくある)批判(2)

昨日のエントリの続き。

日本産経新聞(2012/1/1)の同じページにこんな記述があります(○付き数字は筆者の挿入)。

『①IT化そのものへの抵抗感も壁になる。文科省がIT化推進のため設けた有識者懇談会では「情報化だけを先鋭的に進めることなく、手で書くなどの身体活動を組み合わせるべきだ」との意見が出た。②同省は「紙の教科書やノートはなくさない」と説明するが、子供の頃から情報機器に囲まれる生活が続くことを危惧する声は根強い。』

①で言うところの「抵抗感」。主語が教員なのか、子どもたちなのか、家庭なのか、一般人なのか分かりません。この文を受けて有識者懇談会なるものが登場しますが、この意見はしごくまっとうです。パソコンやソフト(アプリ)だけで授業は完結しませんし、手を実際に動かして文字や図形を描く、色を塗る、紙を切り抜く、糊で貼り付ける、といった操作はとても大切です。まさか、タブレットパソコンが入ることでこういったことが教室から無くなってしまうと、本気で心配している人がいるってことでしょうか。
この辺の感覚は、導入が進む現場の先生は肌で感じています。数時限も授業を行えば大勢の教員が「板書をいかに残すか」をかなり意識し始めます。
私の観察では概ね以下のような「デジタル」と「アナログ」の棲み分けになります。
・電子黒板(プロジェクター)=動 説明のための写真、動画、ソフトなどをテンポラリに投影
・黒板(板書)=静 授業の流れを残す、子どもがノートに筆写する
この2つを並べて提示し、2面で授業が進んでいきます。手書きのノートを残すために、わざわざ「ワークシート」を事前準備し配布している教員もいます。

報道の問題に戻ります。
有識者懇談会の意見を有難がって引き写すだけでなく、教育の視点を持ち合わせた記者が現場取材をきちんと行うことで、いたずらに不安を煽るだけの報道ではなく「ここまでできている。じゃあ、その先は?」という提言に繋がると思うんです。
そして現場取材ができていれば②のように「子供の頃から情報機器に囲まれる生活が続くことを危惧する声は根強い。」 とミスリードすることもなくなります。
どうも現場を見ずに、頭の中で「子どもが四六時中パソコンを使って勉強をする」という 図式を勝手に作り上げ、それに対する批判をするというような不毛感漂う記事はもう勘弁して欲しいですね。これはたまたま取り上げた産経だけの問題ではありません。

子どもの健康への懸念を表明する記事がこの後に続きます。確かに「ディスプレーを長時間見ることで視力が低下」することはあるでしょう。が、児童が一日どれくらいの時間ディスプレーを見ているのか、根拠(データ)が示されていません。一日平均30分以下というクラスもあれば2時間に及ぶクラスもあるかもしれません。
また眺めるディスプレーが手元のパソコンなのか、電子黒板のプラズマディスプレーなのか、機器による特性にも留意する必要があると思いますが、このあたり「ディスプレー」としか書かれていないのは大雑把です。
議論の土台とするなら、最近の子どもの多くが持っているゲーム機や携帯電話の利用時間、家でのテレビの視聴時間をトータルで考えないといけません。学校での電子機器使用にだけ批判の矢が向くのはおかしなことです。そして電子黒板やタブレットパソコンの使用時間の目安について現場(教員)任せではなく、具体的な指針をつくる段階に来ていると思います。

学校現場に入り始めたICT同様、ICT教育を取り巻く報道や人々の意識もよちよち歩きを始めたばかり。でも、マスコミはきちんとした議論の土台として「現場の正確な姿」を伝える努力をもっとしてもよいように思いますが、いかがでしょうか。

WordPressの改行・改段

このブログはレンタルサーバー上にWordPressで構築しています。初めての利用で分からないことだらけ。調べながらのよちよち歩きです。
自分のための備忘録を用意することにしました。

【WordPressでの改行・改段】
・[Enter]キー → 改段(<p></p>の挿入)
・[Shift + Enter]キー → 改行(<br>の挿入)

ICT支援授業への(よくある)批判(1)

明けましておめでとうございます。
ICTwalkerと題して、ICT(Information and Communication Technology)に関するあれこれをメモしていきます。どうぞよろしく。

さて、昨日の元旦、コンビニで5紙ほど新聞を購入し読み比べてみました。どの新聞にもICTを活用した授業の話題が載っており、興味深く読みました。いくつか面白いことも載っていましたが、相変わらず誤解に基づいた的外れな批判もありますね。ここで一例を取り上げてみましょう。
なお私自身の経歴を簡単に述べておきますと、
クラス担任制の高校進学塾の現場で20年近く中学生を中心に学習指導にあたってきました。教えた児童・生徒の数は千数百人に上ります。現在の所属はNTTのグループ会社ですが、このキャリアを活かし2010年度に始まった総務省「フューチャースクール推進事業」では東日本エリアのICT支援員の育成を担当しました。また、類似した事業である「絆プロジェクト」や「教育スクウェア×ICT」でも同様の業務を担当。
塾の視点+ICT教育の現場の視点として参考になれば幸いです。

さて、日本産経新聞の記事です(2012/1/1)。
『学校にもIT』という記事。小見出しを拾うと「最新機器の普及加速」「財源不足、整備阻む」というもので 内容には概ね同意できます。大学でのOCW(Open Course Ware)にも言及されていますし。
しかしよくある「何も知らない一般人の声」をそのまま取り上げ、それに対する現場の実情が レポートされないのは如何なものか。
曰く①「字が書けないような子供が大人になるのはコワイ(20代女性)」、②「礼儀や我慢、努力など根本的な教育を望む(40代女性)」 という要望もあった、とのアンケート結果が述べられています。
この意見、どう思われます?  ICTを活用する/しない以前の問題と感じるのは私だけでしょうか?
現場を見てきた者から言わせてもらうと、①についてはデジタル教材で筆順を確認した後、実際に鉛筆を握って書き取り練習を行う授業形態が多い。ICTは筆順の習得に有効と言えこそすれ・・・というか、ICT支援教育導入前に漢字の書けない大人はいなかったの? ②はそもそも教育の基本でICTを活用する/しない以前に、学校/教員の姿勢という気もします。が、1点事例を紹介しておきます。 クラスの児童が一斉にパソコンを操作するような場面では、説明を聞かせるために先生が全児童のパソコンを一時的に使用不可にできるアプリケーションがあります。が、教育という観点からは「合図があるまでパソコンを操作しない」よう指導すべきでしょう。実際にこのような取り組みが成功している1年生のクラスを参観したこともあります。その一方、好き勝手にパソコンを触ってしまう5年生がいたりします。

上記のような不安・懸念が出るのは、実際の教室の様子が等身大で報道されていないことに一因があると思います。実情を知らない人が想像だけで好き勝手な事をいい、それがマスメディアで取り上げられる。これって、何かよいスパイラルを産むのでしょうか?
マスメディアは「街角インタビュー」方式の声の紹介を考え直した方がいい。

こういう報道の背後にはICTへの嫌悪感があります。もちろん留意すべき点もあるし、ICTは万能ではない。この点を踏まえつつ、取り組みが始まったばかりの現場では先生方の努力でさまざまな検証が行われています。そんな先生の声も紹介しましょう。
とても一度に紹介しきれませんが、2点だけ。
・ICT機器(プロジェクター、実物投影機、電子黒板、タブレットパソコン、など)はあくまで教具のひとつ。使い方は教員しだい。
・持続的にICTを活用している教員は、1時限(45分)の授業の中でここ!というポイントで5〜10分程度活用するケースが多い。 もちろん必要がなければ使用しない。

この話題、明日も続けます。