ガイドライン2012が公表されました

 総務省「教育分野におけるICT利活用推進のための情報通信技術面に関するガイドライン(手引書)2012」が公表されました。

 児童生徒ひとりひとりにタブレットPCやスレート端末(iPadのような端末)を配布して授業に活用しているような現場のICT支援員や教員の方々は目を通しておくとよいでしょう。普段から情報収集をしていれば特別目新しいことはありませんが、網羅性は高いと思いますので。
 中学校の項目には、タブレットPCやIWB選定の考え方が記載されていますが、特別支援学校の機器選定についても記載頂きたかったですね。ICT利活用の狙いがより鮮明になりますから。

 2011年度の調査研究報告書が待たれます。

ICT支援員の今後を資料より考える

 今回は、総務省第3回フューチャースクール推進研究会資料より、資料2「第2回研究会での指摘を踏まえた対応について」から読み取れる「ICT支援員の今後」について考えてみたいと思います。

 気になるトピックスとして「(3)ICT支援員について」の「対応」から抜粋します。
 『今後のICT支援員の役割等について整理するとともに、ICT支援員が常駐しない環境でもICT環境の維持管理をすることを想定した調査の実施を検討する。』
 関連項目として「(1)ICT環境について」の「指摘事項」に
 『支援員なしで扱えるような電子黒板を開発をしてほしい。』とあります。

 「ICT支援員が常駐しない環境でも」「支援員なしで扱えるような電子黒板」という文言から「ICT支援員は非常勤に」という方向性が見て取れます。
 後者に関しては過去エントリでも何度か触れたように、現在の電子黒板(IWB)は高機能・多機能優先で最も重要な授業の流れを作る「タッチ=操作性」に関してお寒い現状があり、それを何とかして欲しいという現場の先生からの心の叫びと読めないことはありません。
 が、前者で明らかに「常駐しない環境でも」と書いてありますので、総務省の描く将来像としては「学校巡回型のICT支援員=学校の先生から見れば非常勤」を想定しているのでしょう。もちろん、経費削減の意味合いが強いでしょうね。

 「ICT支援員の役割等について整理する」という文言も見られます。実証実験とはいえ現在多くの役割を支援員さんは負わされています。
 (a)先生方への機器使用説明
 (b)授業内における機器操作支援
 (c)授業中の機器トラブル対応
 (d)機器メンテナンス
 (e)児童生徒名簿の年度(学期ごとの)更新
 (f)授業で利用するコンテンツの下調べならびに準備
 (g)授業でのICT利活用場面の提案
 (h)日報・授業記録の作成
 (i)その他雑務

 ざっとこのような業務があると思いますが、どう整理しましょう?
 (a)(b)はICT導入時には手厚くする必要があると思いますが、先生方が慣れるに従ってその頻度は減っていくでしょう。
 (c)(d)(e)はオンデマンドで必要に応じて企業が対応する? (c)は現在でも授業を止めないように、児童生徒用のタブレットPCは予備機を用意しているのが普通の運用です。IWB、教員機等にトラブルが起きた場合は・・・先生方にBプランを用意していただくしかありませんね(笑)。
 (f)(g)については、蓄積されつつある知見を共有し先生方の負担を減らす方向で、ということでしょうか。
 (h)は本来のICT支援員の業務ではありませんから(例 学校行事のお手伝い、など)無視してさしつかえないでしょう。

 こう書き並べると確かに学校の先生がICTに慣れてくれば、ICT支援員は非常勤でも現場は回りそうな気もします。

 本当に回りますかね? 回ってることにしよう!じゃないでしょうか(笑)。

 私はICT支援員は常駐が望ましいと考えます。予算がつけば、の話ですが。
 現状は過渡的な運用期で、ICT支援員という資格制度があるわけではありません。しかし、「教育の情報化」ということを見据えた時に図書館司書と同程度の専門性が必要になることは必至です。
 司書教諭のように、先生と兼務するといった運用もあるかもしれませんが負担は相当大きなものになることが予想されます。

 非常勤化するのもやむなし、というのであれば、知見の蓄積・活用に加えて、ICT機器・コンテンツの熟成、現場の習熟といった条件を満たさなければと考えますがいかがでしょう?

ICT使うべきか使わざるべきか

 「迷うことない、必要に応じて使うべきでしょ!」
 とお怒りの声が聞こえてきそうですが、ことはそう単純ではありません。実証実験での話。

 フューチャースクールにせよ、教育スクウェア×ICTにせよ、あるいは絆プロジェクトにせよこれらは学校におけるICTの実証実験です。使ってみないことには実証データが取れないという十字架を背負っています。

 一方で「児童生徒はモルモットじゃない」という声も聞こえてきます。ごもっとも。
「この機能は使わない(使えない)」「このソフトは使わない(使えない)」となっている学校、先生方もいらっしゃいますね。
使いづらいものを無理してまで使う必要はないと思います。

 でも、その判断がとことん付き合った結果なのか、ちょっと触っただけなのかが実証実験では重要だと思います。

使えるレベルに至ってないコンテンツを使う際に、不発に終わった時のことを考えてBプランを用意して下さる先生もいらっしゃいました。
頭が下がります。

単に「使えない」ではなく、「ここが使えない」というふうに語って欲しいですね。そうでないと遅々として改善が進みません。

それから、「こんなふうに使うといいよ」とか「このソフトのここは使えるよ」とか「こういう授業をしてこういう効果が出てきたよ」といった情報共有ができれば開発側のモチベーションも上がると思います。

全否定ではなく、部分否定。

 ICT利活用のためにする授業ではなく、授業のためのICT利活用をして頂きたい。そのためには実証実験により多くの先生方が参加してICT活用授業の開発を加速して欲しい。

 先生方の忙しい状況も理解しつつ、ICT活用が進むことを願っています。

児童生徒アンケートの分析

 今年度のフューチャースクール授業もそろそろ総務省へ報告を上げる時期になってきました。
 K市の特別総合支援学校も例外ではありません。

 私もアンケート・システムログの調査分析を進めています。
 正式なものは総務省から公開されますからそちらをご覧頂くことにして、一点だけ。

 年度途中から始まった事業で、児童生徒にアンケートを実施した時期は2月の下旬。子どもたちは、実質1ヶ月ほどしかシステムに触れていないのですが、なるほど、と同意できる結果が出ています。
 例えば、「パソコンを使った授業は楽しい」と100%の子が肯定的に捉えているものの、多くの子がまだまだ機器の使いにくさを感じています。

 ICT活用授業に否定的な方は、「こんな機器は使えない→授業は黒板とチョークが良い」と「機器の否定=ICT活用授業の全面否定」に走ってしまいます。
 が、上記の結果など見ていると、子どもたちはパソコンを使った授業を楽しみにし、まだこなれなくて使いにくい点を甘受しつつ、その可能性を感じているように思うのです。だからもっと使えるような機器・アプリケーションに改良していって欲しいと強く思うし、それを検証することがフューチャースクールの意義だと感じています。
 前年度の結果も公表されており、2年目ですからもう少し踏み込んで報告書を書けたら、と思います。

・「総務省 フューチャースクール推進事業

 1回の結果だけでは確かなことは言えません。
 継続して調査・分析を行い、ICT活用を運用も含め、カイゼンしていって欲しいと願います。

児童生徒向けコンテンツの「デザイン」問題

 今日も昨日までの流れをすこし引っ張ります。テーマはタイトルの通り。

 昨日までのエントリで「単に高機能・多機能を追及するのはいかがなものか?」と言ってきましたが、児童生徒が利用するコンテンツでは、さらに一歩踏み込んだ議論が必要と考えます。

 どういうことか?

 例えば、算数の立体図形を学ぶコンテンツでは、3D表示の立体図形をぐりぐり動かしたり、面、辺、頂点をマーキングしたり、展開図とそれを組み立てた立体を行ったり来たりと、さまざまな機能を持ったものがあります。

 問題は2点あります。

 ひとつは、複雑な機能を実装してしまうと端末(アプリ)が不安定になりがちです。教室でひとりひとりが端末操作を行うケースでは、誰かひとりの端末がフリーズしてしまうと授業がそこで止まってしまうこともしばしば。これがICT支援員の大きな悩みの一つです。

 もうひとつは、子どものおもちゃになってしまうということ。

例えば、マーカーの色を児童が好きに選べる、それ自体は楽しいことです。が、今度は色を取っかえひっかえして遊び出す児童も出てきます。あるいは操作するのが面白くて、興味関心がそちらへ向いてしまう。
もちろん、多機能化のためにする多機能化は論外です。
クラス運営の問題も大きいのですが、いろんな先生が、様々な環境で使うわけですから、授業に必要な機能にフォーカスしたデザインも必要ではないか、と思ったりもします。

このあたり、徐々に知見が集まり始めてると思いますがいかがでしょう。

プラットフォームとしてのICT

昨日のエントリの続き。

新しいiPadを巡る一部のTweetなどネット上の意見を見て、未だプラットフォームが確立されていない小中高のICT活用教育の現場を想起しました。

児童生徒1人に1台のタブレット/パソコン環境というのは要不要も含め検証段階なのでそれ自体いいも悪いもありません。

ここでいくつかの環境を俯瞰してみると、
(1)フューチャースクール:WindowsタブレットPC
(2)絆プロジェクト:iPad、WindowsタブレットPC
(3)教育スクウェア:Androidタブレット

プラットフォーム黎明期なので、カンブリア紀のように様々な冒険があってもいいと思います。

 ただ、多機能、高機能が目的化している現状には不満を覚えます。

 例えば、多機能過ぎて児童生徒への提示操作にとまどうインタフェースのデジタル教科書。
 例えば、ふだん使用しない機能を充実させ、「書きやすさ」はなおざりなままのIWB。

 もちろん、目に見える機能を充実させた方が製品は売りやすいでしょうし、展示会では見栄えがします。
 でも現場からのフィードバックをないがしろにしていいとは思えません。

 あるIWBメーカーの方に言った事があります。
 「すべての先生が喜んで御社のIWBを導入したくなるヒントを差し上げましょうか?」
 「はい、なんですか?」
 「ペンやチョークの書き心地の実現、それだけです。」
 担当の方は目を丸くしていました。意外なヒントだったのかもしれませんし、それが難しいんですと言いたかったのかもしれません。

 しかし、プラットフォームとして、バージョンアップの度に新機能が欲しいわけではないのです。

 ささやかでもいい、使い勝手を向上させて下さい。
 プラットフォームとして、ICT環境は透明な存在になって欲しい。

 熟成、という言葉の意味を再確認させてくれた、新しいiPadではありました。

新iPadに関する見解の相違2

 ちょっとしつこいですが、以下の記事を見つけたので昨日の続き。

・「アップル神通力に陰り サプライズ乏しい…新型iPadに失望の声

 世の中には気の毒な残念なことに、イノベーションにしか価値を見いだせない方々がいます。現場を知らない、机上思考の傍観者。

 今回、新しいiPadがiPad2とほとんど変わらなかったのはマーケティング的にも大正解でしょう。なぜなら、iPad2が著しく旧式化してAndroid端末に見劣りがするわけでも、マーケットに飽きられて出荷台数が大幅に落ち込んでるわけでもないからです。

 むしろ、コンテンツが充実しつつある今、互換性を損ねるような大幅な変更の方が問題。今は熟成の時期なのです。

 iPadは毎年新機種を発表しています。今回の発表で3代目ですが、iPadユーザも増えプラットフォームとして機能し始めて間もないといえます。ここで大幅に新機能を搭載するとコンテンツ・プロバイダもiPadというプラットフォームを敬遠してしまいます。
 多様性をうたうAndroidの弱点はそこであり、矢継ぎ早に新ハードを発表して結局マーケットから退場せざるを得なかったセガ(私は好きなメーカーで、メガドライブ→サターン→ドリームキャストと貢ぎました(笑))に学ぶべきでしょう。

 そういう意味では、おそらく来春発売される次のiPadは新機軸を搭載してきます。その頃にはLTEも今より普及し、iBooksの動きも見えてくるなど環境も変化しているはず。

 アップルのティム・クックCEOの評価はそこを見てからでも遅くないのではないでしょうか。

新iPadに関する見解の相違

 昨日に続いて新iPadの話題です。

 TwitterのTL(タイムライン)を眺めていると、iPadについて様々な意見が飛び交っていて面白い。

 期待通りという人、期待外れという人。

 人それぞれでいいんですが、期待外れという人は「Retina Display」の美しさを過小評価しています。
 ウソだと思ったら、店頭で(並んだ頃に)デモ機に触れてみるといい。

 これ、デジタルコンテンツの底が一段上がるくらいのインパクトですよ。
 特に学校現場では。

 ウソだと思ったら、デザインに優れた教育用デジタルコンテンツを再生して子どもたちに見せてあげて下さい。
 フューチャースクールでタブレットPCに触れている子どもたちがいいでしょう。
 デジタル機器に慣れている彼ら/彼女らもきっと目を見張るはずです。

 アナログ放送から地デジに移行した時の感動、この感じに近いと思います。

 ちょっとしたデモ教材を作ろうと、わくわくしている自分がいます。

教育用タブレットの本命? 新iPad発表

 巷間「iPad3」「iPad HD」と呼ばれていた「新しいiPad」が発表になりました。

 私はiPad(特に「新しいiPad」)が教育用タブレットの本命になると考えています。

【理由その1】
・ひとつのベンダーがコントロールする安定したプラットフォーム
 iPadはハード、ソフトともにAppleが管理しており、安定したプラットフォームです。また、Androidのように端末によって画面解像度が違う、スペックが違うといったこともありません。これは教育現場で大勢の生徒に扱わせる先生にとっても利点ですし、コンテンツ開発を行うベンダーにとってもメリットです。

【理由その2】
・高解像度「Retina Display」採用
 iPhone4/4Sをお使いの方はご存知のように「Retina Display(網膜ディスプレイ)」の解像度は高く、通常の利用ではドットを見分けることができません。これが文字・グラフィクスの見栄えを非常に美しくしています。「教科書」をうたう以上、これくらいの見栄えは必要だと思われます。

【理由その3】
・無料電子書籍オーサリングツール「iBooks Author」の提供
 アメリカの大学の教科書事情を考慮して「教科書の再発明」を宣言したアップルですが、その影響は日本にも及ぶでしょう。検定が必要な教科書はまだ先のことになるでしょうが、iBooks Authorを利用して児童生徒が利用する副教材がリリースされるのにそれほど時間を要しないでしょう。情熱のある先生方のワーキンググループから近々副教材が共有される可能性もあります。
 私自身、個人や中小ベンダーが電子書籍を作成し、流通させることのできるプラットフォームに非常に大きな可能性を感じています。

【理由その4】
・バッテリ、Wi-Fi、カメラの基本性能
 細かいスペックはAppleのサイトをご覧頂くことにしましょう。それでも10時間駆動するバッテリ、IEEE802.11.n対応の無線LAN、500万画素の外向きカメラは魅力的で子どもの学習のフィールドを広げる可能性を持っています。例えば野外学習にiPadを持ち出せばハイクオリティの写真、動画を撮影でき、iPadで編集できてしまいます。

 ひとつのデバイスだけで教育現場を大きく変えられるとは思いません。
 しかし、安定性に欠けフリーズする、コンテンツの選択肢が乏しい、といった端末を体験してきた私から見ると、iPadが魅力的なデバイスであることは間違いありません。

シャープ、教育用タブレットJT-T100発表

 日本時間、本日の深夜から明朝にかけてiPad3の発表(?)があるようで、心待ちにしているユーザも多いことでしょう。

 それはさておき、やや古いニュースですがシャープが教育用タブレットを今月1日に発表しましたね。

・「シャープ、教育市場向けAndroidタブレット「JL-T100」

 CPUはデュアルコアを採用ということですが、バッテリ駆動時間はどれくらいになるのでしょう? 学校現場で利活用するためには、朝充電庫から取り出して放課後しまうまで充電しない使い方が一般的です。少なくともカタログスペックではなく、実駆動時間で最低6時間は必須と思われます。

 OSは安定性重視ということでAndroid2.3搭載。このOSの選定は正解かもしれません。というのも、授業をストップさせてしまうシステムトラブルが看過できないからです。

 解像度はどうでしょう? 1024×600というのはGalaxy Tabなどと同じですが、やや特殊な解像度。Androidタブレットは端末ごとに解像度が異なり、これがアプリ対応を難しくしている側面があります。ちなみにiPadは1024×768。XGAというパソコンにもある一般的な規格ですから、コンテンツ製作者から見ると画面設計が1種類で済むというのは工数削減という点で言えば大きなメリットですね。

 このタブレット、電子黒板との連携、電子ペンによる書き込みなど魅力的な機能も搭載してます。が、カタログスペックだけ充実しても教育現場では使えないケースがよくあります。安定性、使い勝手のよさが大切です。前にも書きましたが、書き心地のよいIWBが発売されたら、たとえ機能が少なくても先生方は喜んで使います。ここなんですよね。
 多機能な方が売り込み時には見栄えがしますから有利に働くかもしれません。が、IWBの機能でペン、拡大・縮小以外の機能を常用している先生を見たことがありません。現場は「使い勝手」を求めています。

 このタブレット、現場からのフィードバックが活かされているようなので、ぜひ実物を触りに展示会に行きたいと思います。